恐怖の泉

実話系・怖い話「亡くなる時の異変」

私は介護士として、主に病院の夜勤として働いています。
様々な経験をさせてもらいましたが、通常とはまた違った体験をする事も何度かありました。
その中でも、1番印象に残った出来事をお話させて頂きます。

当時、私が働いていた病院で一緒に夜勤をしている看護師さんが言っていました。
「人が亡くなる時って、線香の香りがしない?」
なんでもベテランの看護師になると、患者さんが亡くなる日は線香の香りがしてくるというのです。人によっては菊の花の香りと表現する方もいました。
それは霊感というよりも、ベテランならではの勘から来るのだとか。
「あなたもずっと働いてたら分かるようになるわよ。」
そう言われても、私としては笑って誤魔化すしかありません。

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まだ経験の浅かった私は、とにかく日々の仕事で頭がいっぱいでした。
こんな私が勤務時間帯に患者さんが亡くなるというケースに立ち会ってしまったら、一体どうすれば良いのか全く想像できず、役に立てる自信もありません。
いくら介護士とはいえ患者さんが亡くなれば死後処置等のお手伝いをしなければなりませんから、人の死に直面するかもしれないと思うと不安で気が重くなります。
そう思いながら仕事を続けていましたが、幸いにも患者さんとのお別れを経験しないまま時は流れました。

ですがついにその日が来てしまいました。
私はその日、準夜勤というシフトで夜中の1時までが仕事でした。
夜中0時を過ぎて間もなく仕事が終わる、今日も無事に終わって良かったと心の中で安心していた矢先、遠くでモニターの音が鳴っているのが聞こえました。
恐る恐る看護師へ確認に行くと、たった今呼吸が止まったとのことでした。

私は一気に血の気が引いてしまいましたが、そんなことはおかまいなしに看護師から次々と指示が飛びます。
夜中に患者さんが亡くなったり急変したりすると、入院されている患者さんのお世話も合わせてしなければなりませんから、病棟は目が回るほど忙しくなります。
指示されるがままなんとか仕事をこなし、あとは葬儀屋さんに引き継ぐだけ。
(もうすぐ帰れるところだったのに、なんてついてないんだろ。)
私が心の中でそんな不謹慎な思いを抱いていると、事件が起こりました。
ナースコールが3つ同時に鳴り出したのです。

病棟には認知症や寝たきりの方がほとんどで、自分でナースコールを押すなど不可能な方ばかりです。普段も全くと言うほど鳴りません。
それなのに、その時だけはうるさい程鳴って止みませんでした。

各々の部屋へ駆けつけてみると、静かに寝ていたはずの老人達が起き上がっている姿が目に入ります。
両手を合わせお経を唱えながら、お見送りをしなければいけないからここを出してと言われ、私は背筋が凍りつきました。
1人だけならまだしも、3人の方が同じ事を口走ります。
亡くなった患者さんと、お見送りしたいという3人の患者さんは全く接点もありません。部屋も別です。
普段は受け答えも難しい患者さんなのに…。

後に聞いた話では、こういう事はたまにあるのだそうです。
お年寄りは何かを悟っているのか、認知症になってもそういう勘は残るんじゃないかな、というのはベテラン看護師の見解です。
体験した当時は怖くて仕方がありませんでしたが、振り返ってみれば人の死に手を合わせ見送りたいという行為がとても人間らしく、私も見習って最後まできちんと見送る心構えで仕事に臨んでいます。

その後も同じ仕事を続け、私もベテランと呼ばれる域となりましたが、人が亡くなる前にするという線香の香りは未だに感じたことがありません。
他でもそういった話を聞いた事が無いので、ひょっとすると何か特別な力が働いていたのでしょうか。
死が身近にある場所は、不思議な事が多いです。

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